講演要旨( 平良 和昭 氏)

数理生態学における拡散的ロジステック方程式を例にとって、マルサス及びフェアフルストの人口論の適用範囲の数学的な特徴付けを与える。数学的な結論としては、人口の流動(拡散速度)が小さい場合はマルサスの人口論に従い、人口の流動が大きい場合はフェアフルストの人口論に従う。 その臨界値は、生存競争が無く、食糧も豊富な居住領域におけるディリクレ問題の第1固有値として特徴付けられる。

 これらの結果を、標題にいう半群的アプローチでは、以下のような方針で証明する:
(1)まず、ヒレ・吉田の半群理論の連続関数空間版の枠組において、不連続(VMO)係数を持つ拡散作用素に対するフェラー半群の生成定理を証明する。リゾルベントの存在の証明においては、カルデロン・ジグムントの特異積分作用素の理論を援用して、ソボレフ空間ノルムによるアプリオリ評価式を導く。さらに、リゾルベントの正値性の証明では、ソボレフ空間の枠組における最大値の原理が本質的な役割を果たす。
(2)次に、重み関数付きの楕円型境界値問題の第1固有値の代数的単純性を証明する。重み関数の正負は、領域が居住に適しているかどうかに対応する。代数的単純性の証明では、ペロン・フロベニウウスの定理の無限次元版であるクレイン・ルートマンの理論及び加藤敏夫の解析的摂動論を有効に使う。
(3)最後に、代数的に単純な固有値は強い安定性を持つので、対応する固有関数からの摂動によって、局所的な正値解を構成することができる。この正値解は、拡散速度に対応するパラメータが大きい場合は、生存競争の効果が現れ、フェアフルストの人口論に対応する。これに対して、マルサスの人口論は、拡散速度に対応するパラメータが小さく、生存競争の効果が無視できる場合に成立する。


Seminar on Analysis at University of Tsukuba