「明解 線形代数(日本評論社)」第1版第5刷の情報


ここでは第1版第5刷の情報をお届けしています。

最先端の代数学を専門的に研究してきた筑波大学の教授4名が、 長年に亘る教育と研究の経験を生かして、 線形代数の初歩から高度な理論までを徹底的に分かり易く 書き下ろした作品です。全員で幾度も議論を重ねながら、 可能な限り丁寧に解説することに努めました。 実は原稿では第10章も準備されていましたが、 ページ数の関係で止む無くこの本からは削除されました。 同じ理由により演習問題の量もやや控えめになりましたが、 問題のための問題というよりも、 理論を理解する上で必要な良問を厳選しました。 皆様の御期待に十分に沿えるものと信じておりますが、 今後のために建設的な御批判を色々と頂戴できれば幸いです。 このページに記載されている事柄に関する責任は本書の著者に帰します。

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◎ 線形代数を一通り修得し、 さらに代数に興味を持たれた方には 『代数の魅力』 (数学書房)がお奨めです。 その情報は こちら

変更箇所一覧(4刷から5刷へ)

誤植を訂正しました。

● 第1版第4刷のページにある正誤表に掲載されている箇所 は修正済です。


暫定正誤表

第1版第5刷(2011年2月10日発行)

行・場所 誤(修正前)   正(修正後)
         
         

(注) 行の欄で -m とあるのは下から m 行目という意味。
(注) [注:・・・] は修正についてのコメント。


補充問題

◎第4章の章末問題へ補充(p.121)
問題5
A を n 次正方行列とし、異なる n 個の固有値 α1, ... ,αn をもつとする。A の各固有値 αi に対して、固有ベクトル vi を適当に選ぶ。
(1) v1, ... ,vn は線形独立であること、すなわち それらを列に並べた n 次正方行列 B = (v1, ... ,vn) は正則行列であることを示せ。
(2) α1, ... ,αn を順に並べた対角行列を
C = ( α1
 
 

 

 
 
αn
)
とおくとき、AB = BC すなわち B-1AB = C となることを示せ。

◎第5章の章末問題へ改良と補充(p.132-133)
問題1
行列 A ∈ M(l,m;K), B ∈ M(m,n;K), C ∈ M(l,n;K) に対して、 LA o LB = LC ⇔ AB = C を示せ。

問題1解答
<ヒント> A(Bx) = (AB)x であること、および L の単射性を用いる。

問題8
今までと同じ記号の下で、 f = LA ∈ End(Kn) , A ∈ M(n,K) とするとき、 次の4条件は全て同値であることを示せ。
(1) f は単射である。
(2) f は全射である。
(3) f は全単射である。
(4) A は正則行列である。

◎第6章の章末問題へ補充(p.184)
問題9
有限次元ベクトル空間 V の線形変換 f と、 V の1つの基底 v1, ... ,vn および V の別の基底 w1, ... ,wn に対して、 基底の変換行列 P を
(w1, ... ,wn) = (v1, ... ,vn) P 
で定め、また f の表現行列 A, B をそれぞれ
(f(v1), ... ,f(vn)) = (v1, ... ,vn) A

(f(w1), ... ,f(wn)) = (w1, ... ,wn) B
で与える。このとき、B = P-1 A P となることを示せ。

問題10
有限次元ベクトル空間 V の線形変換 f が、 V の部分空間 W に対して f(W) ⊂ W を満たすならば、 V の適当な基底に関して f の表現行列は
( A
O
B
C
)
の形になることを示せ。 ただし、A ∈ M(r,K) , r = dim W とする。

問題11
有限次元ベクトル空間 V が部分空間 W と U の直和
V = W U
であり、 V の線形変換 f が f(W) ⊂ W かつ f(U) ⊂ U を満たすならば、 V の適当な基底に関して f の表現行列は
( A
O
O
B
)
の形になることを示せ。 ただし、A ∈ M(r,K) , r = dim W とする。

◎第7章の章末問題へ改良(p.199-201)
問題1(3)
n 次正方行列 A, B に対して、n 次正則行列 P, Q をうまく選んで
A' = P A Q = ( Er
O
O
O
) , B' = Q-1 B P-1, r = rank A
と変形する。このとき、 ΦAB(x) = ΦA'B'(x) = ΦB'A'(x) = ΦBA(x) を示せ。
(別証が例題 9.1 にもある。)

問題9解答
与えられた f ∈ End(V) の相異なる固有値全体を α1, ... ,αr とするとき、定理7.11に注意すれば、 仮定より V は f の固有空間 Vαi の直和
V = Vα1 ... Vαr
と書けている。 ここで Wαi = W ∩ Vαi とおき、各 i = 1,2, ... ,r に対して fi = (f - α1I)...(f - αi-1I) (f - αi+1I)...(f - αrI) と定める。さて、任意の元 w ∈ W に対し w = v1 + ... + vr (vi ∈ Vαi) と書き表すとき、 fi(w) = (αi1) ... (αii-1) (αii+1) ... (αir) vi ∈ W を得る。これより vi ∈ Wαi が成り立つ。従って
W = Wα1 ... Wαr
であり、再び定理7.11に注意すれば、これは f|W ∈ End(W) が半単純であることを 意味している。 (第9章で広義固有空間を学ぶと、 より簡潔な証明が得られるので、各自試みられよ。)

◎第9章の章末問題へ改良と補充(p.249-250)
問題6
α を f の1つの固有値とする。 広義固有空間 V( α ) が r 次元ならば Im(f - α )r = Im(f - α )r+1 および Ker(f - α )r = V( α ) であることを示せ。

問題10
複素2次行列
A = ( a
c
b
d
)
( α
0
1
α
)
の形のジョルダン標準形をもつための条件を求め、 そのときの A の加法的ジョルダン分解を求めよ。

問題11
次の各行列のジョルダン標準形を求めよ。
(1) ( 2
0
0
2
2
0
2
2
3
)
(2) ( -1
0
0
-14
2
-1
-10
1
0
)
(3) ( 3
3
-4
4
11
-13
3
7
-8
)
(4) ( 5
-8
8
20
3
-3
4
8
-6
12
-10
-27
2
-4
3
8
)

筑波大学数学類における授業内容の例 (平成19年度より組織が変更になりました)

線形代数T (1年次、1単位、1学期、75分授業×10回)
<1学期>
第1章 数ベクトルと行列
第2章 連立1次方程式と行列

線形代数U (1年次、1単位、2学期、75分授業×10回)
<2学期>
第3章 行列式
第4章 行列式の発展

線形代数V (1年次、1単位、3学期、75分授業×10回)
<3学期>
第5章 数ベクトル空間と線形写像
第6章 ベクトル空間と線形写像
 6.1 ベクトル空間と部分空間
 6.2 線形独立性と基底
 6.3 ベクトル空間の次元
 6.4 部分空間の和と直和
 6.5 線形写像

線形代数続論 (2年次、2単位、1・2学期、75分授業×20回)
<1学期>
第6章 ベクトル空間と線形写像(章の最初から復習を兼ねて)
第7章 固有値と固有ベクトル
<2学期>
第8章 幾何学的応用−2次曲面の分類と回転対称−
第9章 ジョルダン標準形

(注) 筑波大学は3学期制です。
(注) 5単位分でゆっくりと内容を消化する授業計画になっています。

著者の情報

木村達雄/竹内光弘/宮本雅彦/森田 純 (50音順)
筑波大学大学院数理物質科学研究科数学専攻・教授(名誉教授も含む)

主な専門分野
木村 (概均質ベクトル空間・数論・代数幾何学など)
竹内 (量子群・ホップ代数・組紐カテゴリーなど)
宮本 (有限群・代数的組合せ論・頂点作用素代数など)
森田 (代数群・リー代数・準結晶数学など)

執筆の裏話

木村 『連立1次方程式の解き方などを最初に説明して線形代数の有用性をわかってもらう 教科書を作りたいと思っていました。代数学の教授4名で作って何回も打ち合わせを するうちに非常に仲良くなったのは思わぬ副産物でした。』

竹内 『p.214-p.216,p.271 の2次曲面の図は杉山和成さんにパソコンで作成して 頂きました。パソコンの得意な方は2次曲面を画面上で色々な方向から見たり、 パラメータを連続的に動かしたりして曲面の変化する様子を観察してみて下さい。』

宮本 『最初は、個々の先生がそれぞれの意見を持っていたので、 どうなるかと不安でしたが、 さすが同じ大学だけあって、 何回も話し合いをすることができ、 授業を担当していた先生達(や学生)の多くのアドバイスのおかげで、 かなり統一的な考えで本が出来たと感じています(感謝)。』

森田 『原稿を書く時間が余り取れない中、 編集者の横山伸さんも含めたチームワークの良さで、 何とか発刊にまで漕ぎ着けることが出来ました。 本書を利用して下さる多くの方々に喜んで頂けることを期待しています。』
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